SDGs de はぐくむコラム

森のめぐみでつくる自分の道具

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「スプーンお付けしますか?」
コンビニやスーパーでお弁当を買うと、無料でスプーンやフォークがついてくることがあります。多くはプラスチックで作られていて、一度使ったらゴミ箱へ。食事に使う道具を無料でもらえるなんて、とても便利な世の中です。そして、私たちの暮らしの中では、一度使用するともう使わなくなる様々なモノにあふれていることにも気づきます。

近年SDGsをテーマとした教育旅行や探求学習の受け入れが多くなってきました。里山科学館「森の学校」キョロロでも、里山の生物多様性をテーマとしながら、地域課題の探求や課題解決を考える体験コンテンツへのニーズが大きくなってきています。

「森のめぐみでカトラリーづくり」は、里山整備として自分で木を伐り、削り、スプーンやフォークといった道具作りに向きあう人気の体験コンテンツの一つです。里山には多様な樹木が生育しており、固さ・模様・色彩・香り・形と、特徴に多様性があります。体験ではこれら樹木の多様性を学び感じながら、木々を材料の一部にして「自分の道具を自分で作る」ことにチャレンジしていただいています。

里山の木々を持ち手の材料に作るカトラリー

そもそも「なぜ里山の整備で木々を伐るのか?」「木を伐ることって自然破壊では?」そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。里山では木々を燃料として、道具の材料として、建材として、生業の中で木を伐り使ってきました。細いうちに伐られた株からは萌芽が生え再び成長することで、木々は持続可能な資源として里山の暮らしを支えてきました。

しかし現在、私たちの生活は化石燃料に大きく依存しており、このような用途で木々を資源として使うことはほとんどなくなりました。過疎化・高齢化もあり里山の森は利用されなくなったことで木々は生長していきます。奥山→荒廃した里山→集落周辺というルートが確保されたことで、里での鳥獣被害が増加するという社会的課題にもつながってきています。里山は「人が管理し続けないと維持できない」ある意味特殊な環境でもあるのです。

木を伐ると森が明るくなります。森の土の中で眠っていた種子の発芽が促されたり、明るい森を好む動植物が暮らせる環境が生まれたり。里山では人の多様な関わり方があることで多様な環境が生まれ、この環境の多様性が生き物の多様性につながっています。

里山の木を伐ると森が明るくなる

参加者の皆さんには、このような里山の地域課題を共有し学んでいただきながら、その課題解決につながる行動の舞台として里山で木を伐ることを体験し、伐った木々でカトラリー製作に挑戦していただいています。
木を伐る際、講師をお願いする地域の方から「この木は、こんな道具に使ってきたんだよ」「この木は、この時期に伐ると腐りにくいんだ」などのお話をしていただくことも。子どもたちは、里山の木々が資源として暮らしの中で使われてきたことに想いを巡らせます。

教育旅行での中学生の間伐体験

小刀やサンドペーパーで木を削る子どもたちの顔は真剣そのもの。時間いっぱいまで磨き続け製作に没頭する子どもたちの姿に、引率する先生たちが驚くこともしばしばです。自分で使うのだからこそ、いいもの、作りたいですもんね。
無料で簡単に入手できる道具だからこそ、使ってすぐ捨てるモノだからこそ、森のめぐみを材料に「自分の道具を自分で作る」ことに向き合うことで、暮らしの豊かさやその持続可能性を探求するきっかけになることを期待しています。

小刀を使って形を整える

 

持ちやすく曲がった枝を材料に

ちなみに、木を伐っているとさわやかな香りに包まれることがあります。雪国の森を代表する低木オオバクロモジ(クスノキ科)は樹皮や葉にとても爽やかな芳香を持っており、この香りに皆さんの顔もほころびます。香りという森のめぐみとの出会いも、この活動の楽しみの一つです。

クロモジの枝でつくった箸。いい香りがします。

「人と自然との関係性」は持続可能な社会づくりにとって、欠くことのできない大きなテーマです。里山で地域課題に触れたり、課題解決のための行動をしたり、里山の自然の中での体験を通じて、子どもたちそれぞれが自分なりの「人と自然との関係性」について考えを深められるよう、いろいろなきっかけを提供できるミュージアムでありたいと思っています。

  

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
6月18日は、小林誠さん のお話をお楽しみください。

この記事のWRITER

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

1980年、長岡市生まれ。北海道大学大学院環境科学院博士後期課程修了(環境科学博士)。大学時代は北海道をフィールドに北限のブナ林を研究。現在、十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ学芸員。里山の生物多様性をキーワードに教育普及、体験交流、観光や産業などの側面から、地域博物館を活用した地域づくりに挑戦中。2児の父親。
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