SDGs de はぐくむコラム

能登半島地震

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今回のコラム、当初は学生たちとの内モンゴル紀行を綴る予定でした。現地の子どもたちとの交流や、内モンゴルと日本の子どもたちの健康度を調査した結果などをまとめてお伝えしようと考えていましたが、今回の能登半島地震を受けて再考した内容をコラムとします。

令和6年1月1日、私は新潟市西区の自宅にいました。学生から提出された卒論に目を通しているところでした。思った以上の長い揺れとスマートフォンからの緊急地震速報に、これは大変なことになると感じました。

地震発生直後の我が家はテレビが映らなかったので、ラジオで状況を確認しました。聞こえてきたのは、私が想像する以上の大きな被害を予測させるアナウンサーの避難を促す呼びかけでした。どこまでの被害なのか全容が見えない状況でしたので、ラジオから流れる情報はとてもありがたかったです。

今回の地震を受けて、メディアの重要性を再認識しました。正確な情報は人を正しく導きます。
こういう災害時にこそ、命を守る手立てとなるのが正確な情報です。ネットでは心無い言葉を見ますし、フェイク情報も出回っているようです。見誤らない判断をするために多視点の情報をキャッチすることを私も心がけていますし、ラジオからの情報が私の初期動作を左右したのも確かでしたので、メディアの持つ役割はこういうところにもあると感じました。

地震発生時の我々の研究室ですが、発生のその瞬間から学生たちが対応してくれました。特に研究室の運営を託されているリーダーはすぐにメンバーの安否確認に動いてくれました。おかげで私にもいち早く学生たちの情報が集まりました。一部の学生は大学に避難したことや研究室の破損状況の共有もありました。停電対応のために実験で使っているポータブル電源の使用許可の連絡をくれたのは機転がきいてて素晴らしい判断でした。今回の学生たちの対応はとても良い動きでした。感謝しています。

思い返せば、私も新潟中越地震や中越沖地震を経験しています。2004年10月23日、新潟県中越地方を震源として発生し、最大震度7を記録した新潟県中越地震。大きな揺れでした。その当時のことは私も被災者の一人としてよく記憶しています。
印象に残っているのは、自動車内に寝泊りした避難者と静脈血栓塞栓症の関連です。脚などにできた血栓が肺動脈などに詰まると最悪の場合は死に至ることがあり、飛行機の狭い座席に長時間座っていると発症しやすいことから一般的にはエコノミークラス症候群と呼ばれています。

当時、被災地では近所の空き地や学校のグラウンドに集団で避難をしている地域が多く、十分なスペースが確保されずに身動き取れない状況が続くことがありました。これがエコノミークラス症候群を誘発する原因になったわけです。特に高齢者の発症が多かったようでした。この中越地震の経験から、2007年7月に発生した新潟県中越沖地震の際には、エコノミークラス症候群予防の手立てとして、ラジオ体操やストレッチなどの運動が積極的に取り入れられることになったのです。

自然災害の発生によって健康への影響が生じることがあります。災害による怪我や病気、感染症の拡大、水や食品の不足などが健康に影響を及ぼす要因となります。
新潟市内でいうと、西区では水道管やガス管の破損によってライフラインが絶たれている地域もあるようです。復旧までには時間がかかるとも聞いています。とはいえ、水分は摂らなければいけませんしトイレも我慢はできません。トイレを我慢すると、先述した「肺塞栓症」や「深部静脈血栓症」(足から心臓へと血液を戻す血管に血のかたまりができて詰まってしまう病気)のリスクを高めます。水がもったいないと我慢するのではなく、水分はしっかりとこまめに摂って健康への被害を受けないように心がけたいです。

さて、現在、本学にて各専門分野の先生方と一緒に『地域災害環境システム学』の講義を担当しています。
気象学が専門の理学部 本田明治教授、弁護士であり災害復興法学の著者である岡本正先生、プレイス・ブランディングや関係性マーケテイングが専門の工学部 長尾雅信准教授、河川工学が専門の災害・復興科学研究所 安田浩保准教授とは、にいがた市民大学でも災害講座を担当している私にとってはお馴染みのメンバーです。そんな仲間の研究者もこの講義の担当教員です。多彩な顔ぶれで授業が展開されており、学生たちは真剣に講義に参加してくれています。

その学生たちに向けて岡本先生からは、我慢せずにどんな小さな相談でも新潟県弁護士会の無料相談窓口へアクセスするようにとの言葉がけがありました。これは学生だけでなく我々大人に向けても同様のことが言えるはずです。悩みを一人で抱えず、誰かに伝えることも大切だということを教えられた気持ちです。

また、1月24日には新潟大学研究統括機構ELSIセンター主催、一般財団法人 情報法制研究所JILISの共済によるサイエンスカフェ(第3回)~災害対応時のELSI :プライバシー・個人情報保護~」が開催されます。
テーマは「災害時に状況が変化する中でのプライバシー保護のELSI(倫理的・法的・社会的課題)」です。開催概要は以下の通りですが、様々な視点から震災を考える機会になると思います。

【開催概要】
主催 新潟大学 研究統括機構 ELSIセンター
共催 一般財団法人 情報法制研究所 JILIS
日時 2024年1月24日(水)18:00~19:00
会場 異人池建築図書館喫茶店(オンライン参加可能)
※会場参加は定員(30名)になり次第締め切り
(〒951-8104 新潟県新潟市中央区西大畑町591-1 異人池ハウス 202)
会費 無料 ※会場参加はワンドリンクの注文が必要になります
(ドリンクは喫茶店で各自ご注文ください)

プログラム
話題提供1【復旧・復興・事前対応を図る災害復興法学の観点から】
岡本 正  銀座パートナーズ法律事務所弁護士・博士(法学)
話題提供2【個人情報保護・情報法の立場から】
鈴木 正朝 新潟大学法学部教授
モデレーター【公共政策と情報学・シビックテックの立場から】
白川 展之 新潟大学工学部准教授/ELSIセンター副センター長
事前申し込み制 お申し込みはこちらから

改めて、災害時における情報収集はとても重要です。情報の視点、災害時の行動の視点、健康の視点からこのコラムを構成してみましたが、もっとたくさんの視点があり、それは人によっても変わります。今回の震災で改めて感じましたが、一人で情報を集めるよりも何人かで共有するほうが遥かに効率よいですし、正しい判断に向かいます。

新潟県内でも復旧までには時間がかかる地域もあるかと思います。新潟中越地震を経験した新潟県民の一人として、復興までのこれからに問われるのが、真の地域力だと感じています。

みんなが同じことをできなくても、それぞれにできることがあります。
「逃げること」もできることのひとつだと考えて、生きるための選択をしてもらいたいです。

 

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。1月6日は、新潟大学人文社会・教育科学系准教授 村山敏夫さんです。お楽しみに!

この記事のWRITER

村山 敏夫 (新潟市在住 新潟大学人文社会・教育科学系准教授)

村山 敏夫 (新潟市在住 新潟大学人文社会・教育科学系准教授)

1973年 十日町市生まれ。新潟大学大学院修了。新潟大学SDGs教育推進プロジェクトに取り組み、SDGs未来都市妙高普及啓発実行委員会委員長、新潟市SDGsロゴマーク選考会委員長を担当。出雲崎町、上越市など地域と連携した教育・健康・パートナーシップの仕組みづくりも担う。
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