SDGs de はぐくむコラム

理想的なスタジアムとは

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またサッカーの話になってしまうが、川崎フロンターレのファミリーアートディレクターとしてここ10年ほど、ホームスタジアムである等々力競技場に通っている。そして毎年何試合かはアウェイの応援にと、様々なスタジアムに足を運んだ。スタジアムはその建物の雰囲気からももちろんだが、その土地柄の違いもあり面白い。

たかがサッカーの観戦とよく言われるが、アウェイまで観戦に行くのはそれなりのエネルギーを費やす。もちろん、試合に勝った日は、不思議と風景も美しく感じて、気持ちも足取りも軽くなる。だが、悪い負け方をした日などは不慣れな土地ということも加わり、疲労も大きく、帰り道の足取りは、やたらと重くなる。遠足のように、試合の時間だけでなく、家に帰るまでがアウェイ観戦なのだと思い知らされる。その土地でどう過ごしたか、スタジアムで時間も、アウェイ観戦なのだ。

現在J1は20チームあるが、ここ10年ほどで、そのほとんどのスタジアムに観戦に行った。当然、その土地ごとで環境が違うように、スタジアムの雰囲気も違う。応援のスタイルや客層の違いもあって、生でしか感じられないその臨場感をスタジアムで感じられるのは楽しい。この20チームの中でも、アルビとフロンターレのスタジアムの空気感はどこか似ているような気がする。

実は2018年から2022年までのJ2時代のアルビを応援に、何度かビッグスワンに観戦に行ったことがある。その時は、アウェイではなくホームチームを応援する気持ちで、ビッグスワンに行った。大きなスタジアムだが、臨場感もあり、試合が始まると試合の熱気が客席まで伝わってくる。選手の良いプレーには皆で拍手し、ゴールが決まった時や勝利の瞬間の観客席の一体感はビッグスワンならではのものだ。激しいだけの応援ではなくどこか愛があり、応援していて気持ちがいい。またここに来て試合の観戦をしたいという気持ちにさせる雰囲気をスタジアムが持っている。

フロンターレは、その独特なプロモーション活動でも他チームとの違いを作っている。目先の試合の集客だけでなく、長期的に地元やサポーターとの繋がりが強くなるような活動をしているのが特徴だろう。算数ドリルの作成で地元の小学生との交流、地元企業を絡めた数々のイベント、多摩川エコラシコといった河川敷でのゴミ拾い活動などなど。僕が関わったものだと、「いっしょにおフロんた〜れ」という親子のコミュニケーションと地元の銭湯を盛り上げる企画のように、単に楽しいだけでなく、10年20年後も愛されるクラブになる工夫が、企画のあちこちに惜しみなく盛り込まれている。そのおかげか、スタジアムに足を運ぶと、ポジティブで優しい気持ちになることが多い。そんなフロンターレのチームのカラーがずっと変わって欲しくないと思っているサポーターは多いだろう。

アルビもフロンターレも、子どもからお年寄りまで、観客の年齢層の幅が広い点や、試合内容ももちろん、その他の活動からも、選手が率先してスタジアムの楽しさを伝えようとしている点も似ている。もちろん選手が一番に考えるべきなのは試合に勝つためにどうするかということだろうし、選手は試合のことだけ考えていればいいと思う人もいるだろう。だけど、お客さんや、サポーターの存在なしにプロスポーツは成立しない。そこをチームもきちんと理解せずには、本当に意味での強いチームにはなれないのではないだろうか。ずっと面白く強い魅力的なフロンターレであってほしいと願っているが、アルビにそのお株を奪われないかと最近はヒヤヒヤしている。

今週末、ビッグスワンでのアルビとフロンターレの試合がやってくる。今年はまだ調子の出ないフロンターレなので、ここでぜひ勝たせてもらいたいと思っているのだが、今のアルビはなかなか手強そうだ。きっと面白い試合になるはずだ。そして、その日のビッグスワンが理想的なスタジアムとなるのは間違いないだろう。

 

 

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
6月22日は、「ハレッタ」のキャラクターデザインを手がけた、イラストレーターでアートディレクターの大塚いちおさんです。お楽しみに!
http://BSNラジオ ALBI LIVE | BSNラジオ | 2024/06/22/土 17:59-20:20 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20240622175900

この記事のWRITER

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

1968年上越市生まれ。イラストレーター・アートディレクターとして、テレビ、CMなどのイラスト・デザインを手掛ける。子ども番組「みいつけた!」(NHKEテレ)アートディレクションを担当。連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK)タイトルバックイラストなど。子ども向けのワークショップも多数開催。2005年に東京ADC賞受賞。東京造形大学特任教授。
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