SDGs de はぐくむコラム

寂しいときに「だいすき」と言う

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最近気になることがある。
6歳の長女が、毎日「お母さん、大好き」と言ってくる。
夜、子どもたちのお風呂の準備で忙しくしているときに冗談めかして言う「おかーさん大好きー」。生まれたばかりの長男に授乳しているときに、背中から鼻歌混じりで言う「大好き〜」。次女と長男が寝て、二人っきりになったときにぽつりと言う「だいすき」。

いやいやそれってとっても素敵なことじゃないか。
そうかもしれない。
でも私からすると、最近までこんなに毎日大好きなんて言う子ではなかったから、心の中でどんな変化があったんだろうと、違和感を感じた。

そもそも「大好き」なんて言われ慣れてない私にとっては「大好き」を連呼されると「本当に?」と疑念が湧いてしまうくらいこじれている30代子持ち女……。
万年、片思いだった青春時代。両思いなんて選ばれし者だけが教授できる素晴らしき奇跡だと思っていた。

なのにだ。
大学を出て山奥で一人農業をしていた私を受け止めてくれた奇特なまともな方が現れ、奇跡的に結婚することができた。
そしてこじれてた私にも、こどもができ、奇跡的に母になった。
8月には第三子も生まれ、産後1ヶ月から始まったさつまいもの収穫繁忙期と、来月から稼働する新しい食品加工所の準備に追われているという、子どもとともに嵐のような日々を過ごしている。

なんでこんなにも我が子は、無条件にこんな私を好いてくれるのか… 。
確かに子どもにとって、この子たちの世界には家族と保育園と、地域・血縁コミュニティがすべて。
ドッカーンと怒っても、よく思われようと思っていつも笑顔でいたり、
飾るようなことをしたりしなくても、素のままの私に「大好き」と言ってくることに、ときどき申し訳ない気持ちにもなる。

この子たちが言う「大好き」に釣り合うようなお母さんに精一杯なりたいと、努力するようになる。
もっと子どもたちと向き合えるように、もっと子どもたちと過ごせる時間を増やせるように。こんなに忙しいお母さんじゃなくて、ご機嫌な時間が多いお母さんでいられるように……。

だから「お母さん大好き」と、息をするように何の脈絡もなく突然、それも頻繁に言われると、どう反応していいか分からず「ありがとうー」とか「お母さんも大好き」とかしか言えなかった。

ある日、私は娘に聞いてみた。
「いったいお母さんのどこが好きなん?」
「うーん、ぜんぶ!」
「ぜんぶ??」
「あとは、やさしくしてくれるから」
…やさしく……。
そのときふと、娘が大好きを言うようになったシーンがフラッシュバックしてきた。

それは、娘が盲腸になり、一緒に1週間入院したときや
第三子が生まれたばかりのときだった。

もしかして娘は、寂しいときに、大好きって言ってるんじゃないのか?

そんな仮説が、心の中の静かな水面に、ポツンと浮かび上がってきた。
それは、自分への愛情を確かめるような「だいすき」。構ってほしいの裏返しの「だいすき」。でも正直にそれを伝えると忙しいお母さんの迷惑になってしまうんじゃないかっていう遠慮からの「だいすき」…?
違うかもしれないし、そうかもしれない。

いつも娘が「だいすき」と言った後の、はにかみながらも所在なさげな様子で立っている姿を思い出した。

大切で愛おしい「だいすき」という言葉のプレゼントをもらったら、目の前の仕事の手を止めて、娘の方をちゃんと向いて、ぎゅって抱きしめよう。
言葉にならないだいすきのお返しをしよう。
今日も、こどもたちの「だいすき」を受け止める。

この記事のWRITER

佐藤 可奈子(十日町市在住 スノーデイズファーム代表)

佐藤 可奈子(十日町市在住 スノーデイズファーム代表)

1987年、香川県生まれ。立教大学法学部卒業後、中越地震復興ボランティアに参加した十日町市池谷集落に移住。当時、6軒13人の限界集落で就農。中山間地の暮らし・仕事・子育てを地続きにした農業をめざし「スノーデイズファーム」を設立。2017年 ForbesJAPAN「日本を元気にする88人」に選出。地元男性と結婚し、2019年6月に次女となる第2子出産。 https://snowdays.jp
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