SDGs de はぐくむコラム

セミの羽化 わたしの原体験

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窓を開けると、田んぼからシュレーゲルアオガエルの鳴き声が聞こえます。森ではブナが芽吹きだし、シジュウカラがにぎやかにさえずり、里山に生き物たちの恋の季節が到来しました。
はじめまして。私は十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロという小さなミュージアムで学芸員をしております小林誠と申します。長岡市で生まれ育ち、大学・大学院時代を埼玉県・北海道で過ごし、大学院を修了後、日本の原風景が色濃く残る十日町市松之山へ移住しました。植物生態学・博物館教育・環境教育を専門としており、簡単にいえば自然観察やミュージアムが大好きな人間です。学生時代からブナ林を研究対象としており、ブナの森を歩くのも大好き。家庭では、娘たちと一緒に里山の自然の中で心躍らせる、子育て9年目の2児の父親でもあります。

現在、自然科学館の学芸員の仕事をしています。里山の生物多様性をキーワードに、教育普及・体験交流・観光や産業などの側面から、地域博物館を活用した地域づくりに挑戦しています。キョロロはアカショウビンという鳥の鳴き声「キョロロロロロ~」から名付けられた自然科学館で、里山の生物多様性に関する展示や豊富な体験イベントを通年提供しています。すぐ近くには美人林と呼ばれる美しいブナ林があり、これから新緑がまぶしい季節がやってきます。このような里山の環境で、来館する子どもたちが里山の自然で様々な発見を楽しみ、学びを深める姿を目にすることは、この仕事の大きな喜びの一つです。

私たちは自然に対して、「美しいな」「怖いな」「尊いな」など、自分なりの「自然観」を持っています。幼少期は人間形成の基盤を育む重要な時期であり、特に幼少期の自然体験は自然観を育む上で重要なプロセスであると認識されています。この自然観は、日常生活での自然との関わり方に影響していると考えられています。自然の中での「原体験」は、自分なりの「自然観」を発達させるうえで、大切な土台であることに疑いはないでしょう。

コラムを書き進める中で、ふと自分自身の原体験を振り返ってみました。私は幼少期から生き物が大好きな子どもでした。といっても当時4本足の生き物にはあまり興味がなく、もっぱら6本足の生き物が興味の対象でした。そう昆虫です。カブトムシを始め、トンボ、チョウ、アリ、バッタなどいろいろな昆虫を採集し飼育した記憶があります。特にセミには強い思い入れがあります。小学2年生から中学2年生くらいまで、夏休みの自由研究で毎日ラジオ体操の後に自宅周辺のセミの抜け殻を集め、そのセミの種類・性別・羽化した場所などを記録しました。特に小学3年生の時に、初めてセミの羽化を目の前で観察したことをよく覚えています。

幼虫の茶色の背中が割れ、中から白い成虫が出てきて、縮まっていた翅がどんどん伸びていく様子を目の前で観察し、その姿にとても感動しました。この自由研究になんと県知事賞をいただき、生き物を調べることの楽しさにもどんどん魅了されていきました。今では植物を主に専門にしていますが、当時の経験が現在のライフワークにつながっていることは間違いないと自覚しています。すいません、ついついセミの話題となると盛り上がってしまいます(笑)

この原体験は、私一人で実現できたことなのかということも、同時に考えてみました。虫好きを否定せず、一番近くで見守ってくれたのは親や祖父母でした。特に祖父は、毎朝のセミの抜け殻探しのパートナーでした。小学校の先生は自由研究をとても応援してくれ、まとめや発表など表現の機会を与えてくれました。振り返ってみると、原体験の実現には子どもの興味関心を見守り広げてくれた「大人の存在」が近くにあることに改めて気づきます。そして今、私自身が親となり、仕事でも子どもたちの自然体験活動に大人として関わっています。子どもの興味関心のつぼみを無下にしていないだろうか、興味関心を深めてあげられているだろうか、そんな思いが心を駆け巡る時があります。

皆さんの原体験の中に、自然の中で過ごした経験はどのくらいありますでしょうか?「子どもの自然離れ」という言葉を近年よく耳にします。急速な都市化や生活習慣・娯楽の変化によって、子どもたちの自然体験が非日常化し、自然の中での原体験が減少していることが明らかとなっています。とはいっても、普段の生活で自然と直接関わる機会は限られている現在、日常の中で自然体験をすることは困難となってきているのも現状です。と同時に、子どもの自然体験の頻度や充実度に対する大人の影響の大きさが、様々な研究で指摘されています。コラムではこんな背景にも触れながら、身近な場所で子どもとの自然体験がちょっと楽しくなるような話題や、ご家族でミュージアムへ足を運びたくなるような話題をご紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

冒頭でご紹介したシュレーゲルアオガエルの鳴き声も聞いてみてくださいね。

4月18日(土)あさ9時~BSNラジオ「大杉りさのRcafe」放送予定

この記事のWRITER

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

1980年、長岡市生まれ。北海道大学大学院環境科学院博士後期課程修了(環境科学博士)。大学時代は北海道をフィールドに北限のブナ林を研究。現在、十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ学芸員。里山の生物多様性をキーワードに教育普及、体験交流、観光や産業などの側面から、地域博物館を活用した地域づくりに挑戦中。2児の父親。
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