SDGs de はぐくむコラム

子どもの睡眠が足りない

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“睡眠負債”という言葉が、2017年の新語・流行語大賞のトップ10に選ばれました。睡眠不足が借金のように積み重なって心身の健康状態に悪影響を及ぼすおそれのある状態のことを言います。今の日本は、20歳以上の平均睡眠時間が6時間未満の人が4割もいるという状態です。そして日本の子どもたちが、おそらく世界の中でも睡眠時間が一番短いのです。

世界17カ国の3歳以下の乳幼児を対象にした睡眠時間調査では、多くの国の子どもたちが夜と昼寝を合わせて13時間近く寝ているのに比べて、日本の子どもが最も短く11時間半くらいしか寝ていないことが分かりました。1936年と2003年の比較の調査では、この67年間で日本の乳児の睡眠時間は1時間20分短くなっていました。大人も同様に短くなっており、長い人類の歴史の中でも、これほど短期間に短くなっているのはかつてない変化です。

睡眠時間が不足すると、心身は休まる時間が少なくなって「慢性ストレス」状態となり、交感神経系が興奮した状態が長く続きます。そのことによって、血圧や心拍数、血糖値などが上がっている状態が続くことになり、肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病になりやすくなります。そのほかに、免疫力の低下や集中力の低下、記憶・学習能力の低下、感情のコントロールの低下、創造性の低下、意欲の低下などが起きやすくなることが分かってきています。最近の研究では、睡眠不足が食欲を亢進させ、さらに高カロリーの食べ物を食べたくなることや、うつや不安になりやすいこと、人を避けたくなり、社会的引きこもりや孤独を引き起こす可能性のあることも指摘されています。

では、どのくらいの睡眠時間がいいのでしょうか。個人差などもあり、はっきりとしたことはまだ分かっていませんが、アメリカの睡眠医学会が発表した睡眠の推奨時間は次の通りです。

生後4~12カ月:12~16時間(昼寝の時間も含む)

1~2歳    :11~14時間(  〃     )

3~5歳      :10~13時間(  〃     )

6~12歳     :9~12時間

13~18歳     :8~10時間

睡眠不足にさせる原因として、テレビやビデオ、ゲーム、インターネット、スマホなどのメディアの影響がかなり大きいことも分かってきています。メディアとどのようにうまく付き合っていくか、子どもたちとどのように話し合って付き合い方を学ばせていくかということは、とても難しい問題ですが、避けて通れない問題です。

子どもの睡眠の習慣は親の影響を大きく受けます。子どもが「夜型」になるのは父親の影響が大きく、子どもの睡眠時間は母親の影響を受ける傾向にあります。睡眠は、私たち人間にとって、たくさんの重要な働きがあり、特に子どもはたっぷり寝ることが心身の発達と健康にとても重要と考えられます。大人も含めて、健康的な睡眠を心がけていきたいものです。

9月7日(土)朝9時~BSNラジオ「大杉りさのRcafe」放送予定

 

 

この記事のWRITER

田中篤(長岡市在住 長岡赤十字病院小児科医)

田中篤(長岡市在住 長岡赤十字病院小児科医)

1954年長岡市生まれ。千葉大学医学部卒業、新潟大学医学部小児科学教室に入局。以降、県内各地の小児科に勤務し、小児疾患全般のほか、小児心身症・不登校・子ども虐待・災害時の子どものこころのケアなどの診療に従事。現在:長岡赤十字病院小児科医。
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