SDGs de はぐくむコラム

持続可能な社会を作る、父親の家事育児参加

SNSでシェア

今回は、前回の”父親の家事育児参加”における、「エンパワーメント(能力開花)」に引き続き、ワークライフバランスのお話をしていきたいと思います。
子どもたちへの持続可能な社会を作るうえでは、少子化対策における重要事項として、父親の家事育児参加が叫ばれてきました。直近では「男性の育児休業の義務化」法案が審議入りし、育休取得率もようやく7%台に入り向上してきました。


私たちファザーリング・ジャパンは長らく、男性の育休取得率向上を数値目標としながら、父親支援を行ってきました。その手法や概念をお伝えできればと思っております。

まずは、前回に引き続き「ワークライフバランス」について説明させていただきます。
ワークライフバランスは、「仕事と家庭の調和」と呼ばれたり、「ワークライフシナジー」などの派生語が出てきたりしています。「いま一つ理解できない…」とか「バランスよく生きていくことでしょ?」などと聞かれることも度々です。
色々な立場があり、色々な価値観があるので、とらえ方も千差万別になるのかもしれません。私は10年前から、経営者としてワークライフバランスに取り組んできましたので、どのように社内のスタッフに伝え、成果を出してきたのかをお伝えしたいと思います。

2011年、一つのきっかけから取り組みを本格化させました。そのきっかけは、ある男性スタッフが娘二人を抱えながら、ご病気で奥様を失って父子家庭となり、仕事をしながら子育てを行わなければならない状況になったことです。その時、その男性スタッフと色々なことを話しました。私は、彼が働きながら子育てができる体制を社内で作れれば、本当のワークライフバランスが実現するのではないかと気づきました。

保育園に子供たちを送り届け、ぎりぎり8時出社に間に合い、残業はせず17時に退社し、子供たちを迎えに行かなければならないのです。それまでは部内の朝礼などは8時前からやっていましたし、退社も早くて18~20時くらい…。残業が当たり前の会社でした。”ワーク・ワーク“バランスの会社でした。

この男性スタッフだけ、特別に優遇することは、「特別扱い」として妬みなどを買う恐れがあったため、本人の為にもならないと思い、チーム全体で取り組むことにしました。ワークライフバランスは、子育て世代だけのものではないのです。仕事をしながら介護を抱える人も今後増えてきて、長い人生の中では、いつ何時ご自身が病になることも…など、色々ななリスクを抱えています。人生において大きな問題が出てきた人を思いやり、助け合い、お互い様の精神で、助けられたら…。助けるということがとても大事と伝え続けました。

それまでは「会社は売上利益を上げるもの」「社員は会社の目標を達成するために、人生や家庭や生き方を犠牲にしてでも貢献するもの」と、私自身も考えていました。スタッフたちにもそう伝えていたかもしれません。多くの企業は、自然とそのような考え方が浸透し、長時間労働型の売上至上主義に流れていましたし、社会全体がまだまだそのようなムードばかりでした。

考え方や会社の方針が大きく180度変わったので、スタッフたちがポカーンとしていたのも、今では可笑しく思えますが(笑)大半のスタッフは、自分たちの親の働き方も、男は仕事、女は家庭というような方々ばかりでしたので、自然とそのような働き方になっており、思考も同様でした。

その思考を大きく変化させるにはどのようにすればよいかを検討し、まずはワークライフバランスは、自分のために!ということを伝え始めました。

とかく、ワークライフバランスを実現するために企業として行うことは、「業務効率」や「残業削減」「休暇取得」で、そのために委員会や制度を作ったりするので、福利厚生として企業から与えられるものと、捉えられやすいんです。
確かに、効率よく仕事をして、時間を削減するだけでは、その余った時間は、新しい仕事をするのでしょ…とか、休みを取ればお客様に迷惑がかかる…とか、結局自分自身の為ではなく、会社のためにワークライフバランスを仕方なく行う考え方に陥りやすいものです。取り組み始めた当初は、やはりそのような雰囲気になってしまったのを覚えています。

そこで、自分事にしてもらうために「自分たちはワークワークが良いのか?」「ワークライフバランスが良いのか?」を尋ねました。するとほぼ全員のスタッフが「ワークライフバランスが良い!」と答えました。

ではどのようにそれを実践していくの…?と投げかけ、5年後の自分や家族はどのようになりたいのか?そして、現状のワークとライフの比率が「7:3」や「8:2」になっている現状を5年後には「6:4」や「5:5」にワークの比率を大きく下げ、ライフの時間が増えたときに何をやりたいのか?を考えてもらいました。

実はこの「ライフ」の時間が多くなった時、何をしたいのか?がとても重要です。やはり、趣味も仕事でできなくなっていたり、子育ての時間を増やしたかったり、夫婦で出かける時間がもっと欲しかったり、スポーツをしたかったのに断念していたり、地域活動やPTA活動なども仕事のために断っていたりしたものを、働き方を変化させて、自分自身でライフの時間を増やし、やりたい元をやれるんだという目標を持つことが、まずは一番大事なんだと気づいてもらいました。

「やりたいことをやりたいという気持ち」を忘れたことにしたり、気づかないようにしていたりしたスタッフたちが、戸惑っていたこともよく覚えています。それはそうなのです、そういう思考をしたこともなく、仕事や会社はそういうものだ…と思考が停止していたのだと思いますので。

最初は戸惑い、自分がやりたいことを考えられずにとても苦労したようでした。それが1~2年後には徐々に思考の変化が現れ、ワークライフバランスというものを理解し始めたようでした。効率よく仕事を行い、自分自身のライフの時間を作るという意識が芽生え始め、制度や強制ではなく、自分事として取り組んでくれるようになりました。

結果としては2011年からの5年間で生産性が1.6倍にアップし、労働時間が15%削減され、売り上げも136%。スタッフたちのライフが充実しただけでなく企業としても大きな成果が生まれました。

次回は、実際に会社内で取り組んだ「業務効率の手法」など具体的な取り組みをご紹介したいと思います。

*4月17日(土)BSNラジオ 朝10時~「立石勇生 SUNNY  SIDE」で放送予定です。

この記事のWRITER

大堀正幸(新発田市在住・ファザーリングジャパンにいがた顧問)

大堀正幸(新発田市在住・ファザーリングジャパンにいがた顧問)

1973年 新発田市生まれ。大学卒業後、家業のリフォーム業を継ぎ28歳で社長就任。早くから働き方改革やワーク・ライフ・バランスに取り組み、業務効率化に成功。NPOファザーリングジャパンの新潟地区や新潟イクボス企業同盟を設立。2児の父親。 現在:新潟市男女共同参画審議委員 新発田市子供子育て会議委員など。
SNSでシェア

新着記事