はぐくむコラム

父とお酒。

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昨年からのコロナウィルスの影響で、それ以前の日常を取り戻すにはまだもう少し時間がかかりそうだ。
僕の場合、仕事の面では昨年から多くの打ち合わせがリモートを活用することになり、撮影など多くのスタッフが集まっていた仕事の現場は、最小限の人数で行うなど工夫されている。不自由なことも多く必要以上に時間もかかったりするが、仕事ができないわけではないので、それはまだ幸せだと思っている。
それ以外の仕事では大学での授業を持っているが、今年は対面での授業を行なっているので、学生の作ってきた作品を直接見て直接会話できるのは、やはりいい。昨年は全てリモート授業で、パソコンの前で変な緊張と無駄な力が入ってしまって、毎回大学に行く以上に実は疲労していた。リモートで授業ができることは便利だが、直接授業ができることの大切さに、あらためて気づかされた。

いくつかの仕事が重なったり、不規則になったりしがちな僕のような仕事の場合、平日に定時で仕事を切り上げて、家族ときちんと食事をするということがなかなかできない。いい感じに手が動いて進んできた…という時に時間だからとさっと手を止めることができず、どうしても明日までにここまで仕上げたいと思うと、ついつい仕事を続けてしまう。
そんな僕の楽しみは、仕事後の食事やお酒、それと時々家族と行く外での食事だった。僕はお酒を楽しみながら、家族はおいしい食事を楽しむ。なんでもない会話をしたり、時々そんな時間を持てたりすることが仕事の活力にもなっていた。コロナの影響でそれが難しくなってしまったことが、一番残念なことだ。
子どもたちも大学生や高校生と、それぞれで忙しくなっていくので、一緒に食事に出る機会が減ることを思うと、貴重な機会を潰してしまっているこのコロナの状況がとても悔しい。
上京し独り暮らしを始めるまで僕は、上越市の実家で両親と暮らしていた。僕の父は大工だったので、僕とは違って仕事に出ていても、日が暮れれば毎日ほぼ決まった時間に帰ってきた。父は晩酌でビールや日本酒などを飲み、母の作った料理で家族が揃って食事をしていた。それが当たり前だった。当時の僕はそれになんの疑問も持たず、だからもちろん「なんで家族が同じ時間に揃って食事をするの?」なんて質問も浮かんだことすらなかった。ただなんとなく、父がそうしたくて一日の仕事が終わったら家族で食事、と思っていたのだろうということは少し感じていた。
今の僕のようにそれが父にとってのリフレッシュだったかもしれないし、父も家族が揃って食事をするという光景がいずれなくなってしまうと感じていたのかもしれない。
上越を離れ東京で生活し、やがて成人してから帰省すると、事前にリクエストしておいた好きな食べ物を両親と食べた。蟹だったり、地元の好きなお店の出前だったり、もちろん母の料理だったりした。時々お酒も一緒に飲んだ。今ほどお酒の楽しみ方もわからなかったし、家族で飲みすぎるのも照れ臭く、わずかな酒量だったが、それでも父は嬉しそうだった。

上越市の仲町にたたずむウェルモ

両親が亡くなってから、仕事で上越に行くことが増えた。だいたいそんな時は仲町という繁華街に出かけてお酒を飲んだりするのだが、振り返ってみると父や母と仲町に飲みに行った記憶がほとんどない。

雁木が続く通りに複数の飲食店がある仲町は、東京や別の都市の繁華街と比べても独特な情緒があり楽しい。僕がそんなことに気づいたのも実はここ数年だ。父や母と帰省のたびに一緒に行っていたら楽しかっただろうと、後悔してしまう。まして、自分がラベルをデザインしたお酒を居酒屋で一緒に飲むことができたら、どんなに楽しかっただろうか。

昨年、仲町にある居酒屋のオリジナル日本酒のラベルをデザインした。いろいろな媒体や商品などでイラストやデザインをしてきたが、こうしてお店で扱ってもらえるお酒のラベルのデザインは初めてだ。仕事が出来上がった時はそれぞれどれも嬉しいが、できたそれを見るだけではなく、呑んで楽しめるのはいつも以上に嬉しい。それが大好きな日本酒であればなおさらだ。

そんな僕にとって嬉しい日本酒に関わる仕事がいくつか進行している。父や母とはそんなお酒を一緒に飲むことはもうできないが、家族や仲間とそんなお酒を囲んで楽しくできる日常が早く戻ってきてほしいと願うばかりだ。

この記事のWRITER

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

1968年上越市生まれ。イラストレーター・アートディレクターとして、テレビ、CMなどのイラスト・デザインを手掛ける。子ども番組「みいつけた!」(NHKEテレ)アートディレクションを担当。連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK)タイトルバックイラストなど。子ども向けのワークショップも多数開催。2005年に東京ADC賞受賞。東京造形大学特任教授。
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