はぐくむコラム

トラブルが起きて…、私たちはおにぎりを選んだ

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怒涛の農繁期…。さつまいもの植え付けもひと段落し落ち着いてきた。
一方、気づけば妊娠8ヶ月…!2週間前は着れていたつなぎも、
いまチャックが上がらない…。
母がバタバタとしているうちに、お腹の子もぐっと成長していた。

そんながむしゃら農繁期、今年は雨が多くて毎日がギリギリの戦いだった。
畑は雨が降っては何もできない。それなのに天気予報に並ぶ雨マークたち。
そのため曇りの日はギッチギチのスケジュールとなっていた。

その日も、早朝からマルチャー(畝立て・マルチ張り機)で畝立てをする予定だった。
明後日からは、また雨だ。今日中にここの畑を終わらせて、次の畑に向かわねばだ。

そうして5時に畑に集合した。しかし…

マルチャーが、うんともすんとも動かない。
なぜだ。
なぜこうなる!

きょうの全ての段取りが狂い始める。何をどうしても動かない。頭が混乱する。
整備店が開くのは8時から。まだ3時間もある。
うろたえ、そして途方にくれる私たち。
一緒に作業をする予定だった農家さん2人のうち、1人が口を開いた。
「これはもう諦めて、まんま(朝ごはん)にしようて」

そうして、準備していたポットとおにぎりが入った袋を持ってきた。

そうだな。
うん、そうしよう。

何も身動き取れなくなってしまった私たちは、朝ごはんを食べることにした。
薄暗いが、少しずつ光が差し、空気が柔らかくなってきた頃だった。

私たちは諦めて、作業予定の畑の先、山へ繋がる農道を歩き始めた。

それまで忙しすぎて春の朝の、まっさらな澄んだ空気や、山の奥から聞こえてくる鳥の声に耳を澄ますことができないでいた。世界はとても美しくて、賑やかだったけれど、味わる暇もなかった。

私たちは、ぽつりぽつりと話しながら、朝を噛み締めながら歩いた。

少しひらけた場所で腰を下ろした。
手提げの袋からは湯呑みが出てきた(!)。ポットからトトと温かいお茶が注がれ、湯気がたつ。あっという間に非日常感が生まれた。


そして一人一個ずつ大きなおにぎりが配られた。

「バクダンおにぎりだ!」

私は山で食べるバクダンおにぎりが大好きだ。
そもそも、新潟に来て初めてバクダンおにぎりと出会った。さすが米どころ。おにぎりもスケールが違う。四国で見てきた小さな俵型のおにぎりとは比べてものにならない。

しかも、ガブリとかじると、甘いお米にしっかり沁みた大根の味噌漬けが出てきた。
もう一回かじると、おかか、梅、シャケと次々と具が出てきた。
かじればかじるほど、宝物がどんどんおにぎりの中から溢れてくる。どこから食べてもしあわせだ。そんな口福感を噛み締めながら、また一度、山の空気を吸った。

「忙しかったけど、そんで機械も動かないけど、こういう時間が持てたからいいよね」

「そうだね…」

多分順調にきょう、マルチ張りができていたら、このおにぎりは軽トラの中で移動しながらかじっていただろう。慌ただしい時間の中で、さっさとエネルギー補給していただろう。

空を見上げる。
そして、影が少しずつ薄くなっていく田んぼたちを眺めた。

そして、少しずつどこからかトラクターの音や、誰かが農作業を始める音が聞こえ始めた。

突然のトラブル。
怒る人もいるし、イライラする人もいるし、どうにかこうにか動かそうと躍起になる人もいるけれど、私たちは朝ごはんを食べることを選んだ。
あまりにもバタバタと駆け抜けた私たちには、この時間が必要だったのかもしれない。

それは子育ても同じだった。
決めていたスケジュール通りにいかないのが、こどもとの暮らしだ。予期せぬわがままを言い出したり、突然ストライキを起こしたり、なぜか猛烈に何かを嫌がったり…。
でも、予期せぬことが、予期せぬ未来に運んでくれるときもある。
それくらいの、余白を心に持っていたい。

7時。
「さて」と私たちは立ち上がり、また来た道を戻った。

*6月12日(土)BSNラジオ 朝10時~「立石勇生 SUNNY  SIDE」で放送予定です。

この記事のWRITER

佐藤 可奈子(十日町市在住 スノーデイズファーム代表)

佐藤 可奈子(十日町市在住 スノーデイズファーム代表)

1987年、香川県生まれ。立教大学法学部卒業後、中越地震復興ボランティアに参加した十日町市池谷集落に移住。当時、6軒13人の限界集落で就農。中山間地の暮らし・仕事・子育てを地続きにした農業をめざし「スノーデイズファーム」を設立。2017年 ForbesJAPAN「日本を元気にする88人」に選出。地元男性と結婚し、2019年6月に次女となる第2子出産。 https://snowdays.jp
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