SDGs de はぐくむコラム

震災の傷跡残るトルコと新潟をつなぐ

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はぐくむコラムをご覧のみなさん、はじめまして。
現在、国際機関で保健専門官をする傍ら、大学にて教鞭をとっております、中山りさと申します。カウンセラーとして働きながら、メンタルヘルスに関する研究に携わっています。
ご縁があって、新潟でこれからアートセラピーに関する研究を行うことになり、ありがたいことに「はぐくむコラム」執筆の機会をいただきました!
ラジオ放送日は9月2日ですが、9月1日の「防災の日」にちなんで、先日行きましたトルコのお話をさせていただきます。

7月末、私はトルコとシリアの国境近くにおりました。子どもたちの心理的ケアをするプロジェクト立ち上げのため、現状を分析することが目的でした。
まだ記憶に新しい方もいらっしゃると思いますが、トルコ南部のシリア国境近くでは、2023年2月にマグニチュード7.8の地震がありました。その後の大きな揺れの影響もあり、トルコとシリアの両国で大きな被害が出ました。

被災地に数多く残る半壊した建物

数十万という建物が損傷、崩壊し、トルコとシリアの両国合わせて約6万人以上が犠牲となる大きな被害をうけました。多くの人が家を失い、震災から半年たった今も、町の復興はまだ見通しが立っていない箇所も多く、舗装もされていない崩れかけた建物のすぐ横を子どもたち歩いているのです。そして猛暑の中、エアコンなどの設備が不十分な仮住まいで何とか生活を続けようとしている方が多数いる状況でした。

今回は、SDGsの観点から、トルコの被災地で現在課題となっているものを何点かご紹介いたします。

「SDGs 4 質の高い教育をみんなに」

2月の地震によって、子どもたちの心には家族や友達を目の前でなくした衝撃がまだ強く残っています。そのような状況の中で、厳しい進学テストを乗り越えるため、親戚の家に避難し、別の地域の学校に通う子どもも少なくありませんでした。学校に通えなくなってしまった子もおり、通学の困難は大きなストレスとなるばかりでなく、将来へのリスクになることが懸念されます。

ユースセンターに勉強等をしに来ている子どもたち

「SDGs 10 人や国の不平等をなくそう」

上記のようなに状況に加え、シリア難民の子どもたちは、シリアの戦火を思い出したり、共に逃げてきた家族を失ってしまったり、再度のキャンプ生活を余儀なくされるなど、辛い状況にいる子も少なくありません。被災地の混乱も重なり、シリア難民への差別が強くなっているという声もありました。

「SDGs 3 すべての人に健康と福祉を」

心のケアについてトルコ人保護者に質問をしたところ、そこにいる全員が「子どもたちに心理的ケアが必要と思う」と答えました。一方で「必要だと思うものの、(文化的背景などから)専門家に相談しにくい」「私たち(保護者)もだが、目立たないように相談をしたい」などの声も聞かれました。教育施設などにカウンセラーがいて話しやすい状況を作る、心のケアを受けることの理解をすすめるなど、心理的ケアへのアクセスのしやすさを改善していく必要も感じました。

子どもたちの保護者との対話

「SDGs 11 住み続けられるまちづくりを」

防災はトルコのみならず、世界的な課題です。地震大国である日本、そして新潟地震、中越沖地震を経験した新潟からの経験、知見を世界に共有していくことはとて大事なことだと考えます。たとえば、日本では当たり前のようにある避難訓練、防災などに関する知識の普及などがありますが、トルコではこれまで地震のメカニズムに関する話などは一般的に学ぶことではなかったようです。インフラの復旧はもちろんですが、防災の知識というものをあらゆる世代の市民が学び、備えていく必要があるのではないでしょうか。

新潟発の知見を広めることは、被災地にとっても、今後の防災の観点からも大変意味のあることと考えます。様々な課題に直面しているトルコの被災地ですが、日本からの知見共有を含め、必要な支援が子供たちや被災された方々へ届けられるよう、日々話し合いを進めております。

   

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
9月2日は、カウンセラーで公認心理士の中山莉彩さんです。お楽しみに!

この記事のWRITER

中山莉彩(東京都在住 カウンセラー・公認心理士)

中山莉彩(東京都在住 カウンセラー・公認心理士)

カリフォルニア大学バークレー校卒。ニューヨーク大学大学院にて芸術心理療法修士号、東京大学大学院医学系研究科で国際保健学博士号を取得。国連開発計画(UNDP)コソボ事務所、チャド事務所にて紛争後のメンタルヘルス等に関する研究、世界銀行にて保健政策分野における分析業務に従事。都内のインターナショナルスクールやクリニックでカウンセラーとして勤務。大学にて国際保健・社会感情学習(social emotional skills )などを教える。公認心理士。
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