はぐくむコラム

うさぎ美味し⁉かのやま

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この冬、十日町市松之山は一時、積雪が3メートル50センチ程となり、冬の森の自然観察には申し分ない、たっぷりの雪が積もりました。スノーシューを履いて楽しむ雪上の自然観察は、この時期おススメのアクティビティです。キョロロでは雪上散策用にスノーシューをレンタルしていますので、ぜひお子さんと一緒に冬の森での自然観察を楽しんでいただきたいと思います。私自身もガイドで子どもたちと冬の森で自然観察を楽しむことが大好きです。今回はそんな冬の森での自然観察には外せない生き物の一つ「ノウサギ」について紹介したいと思います。

冬の森での自然観察の様子

“長い耳”に”つぶらな瞳”そして”ふわふわの毛”など、「可愛い」象徴としてお馴染みのウサギは、学校や家庭で家畜やペットとして飼育される身近な哺乳類の一つです。これらは野生のノウサギではなく海外のウサギを毛皮やペット用に品種改良したものですが、日本には「ニホンノウサギ」という野生のウサギが生息しています。松之山を含め、雪がたくさん積もる日本海側に生息するノウサギは「トウホクノウサギ」と呼ばれ、他の地域のノウサギと大きく違う特徴を持っています。それは体毛の色が季節によって変わることです。

夏毛(左)と冬毛(右)のノウサギ

ノウサギは冬毛の色に2つのタイプがあります。本州の日本海側の雪が降る地域に生息するノウサギは、褐色の夏毛から白色の冬毛へと毎年毛が替わる一方、太平洋側の雪が降らない地域のノウサギは夏も冬も毛色は褐色のままです。ノウサギはキツネやテン、猛禽類の獲物でもあるため、周囲の環境の変化(積雪)に合わせて毛の色を変化させることで、捕食者に見つかりにくくしていると考えられています。またウサギは他の哺乳類に比べ耳の占める比率が大きく(長い)、音のするほうへ耳を動かすこともでき、聴力にも優れます。「脱兎のごとく」の言葉のように時速40km以上で走ることもでき、その速さは陸上金メダリストのウサイン・ボルトとほぼ同じです。体色の変化や優れた聴力や俊足といった特徴は「逃げ」に特化した生き方をしているともいえます。ノウサギにとって「逃げるは恥」ではないのですね。

 

そんなノウサギの落とし物を、冬の自然観察では子どもたちとよく宝探しのように探します。写真の手の上に乗った小さな丸いものがその落とし物です。これはいったい…?

実はこれ、ノウサギの糞なのです。冬の間、ノウサギは雪の上に顔を出した木の皮や木の芽を鋭い歯を使って食べます。ですので、冬のノウサギの糞は繊維質たっぷり。糞と聞くとなんだか臭い、汚いと思ってしまいますが、ノウサギの糞を割って鼻を近づけてみると…なんと木の香りが!木の繊維質たっぷりの糞からは、香り高いお茶のような香りがし、子どもたちも恐る恐る嗅ぐと「あ、ほんとだ!」「臭くない!」と声をそろえて笑顔になります。冬の動物の暮らしを、このように五感を使った糞の観察からも感じることができます。個人的には、新鮮な糞ほど高級茶葉のような芳醇な香りがするような…個人的見解です。

ノウサギの糞

お茶から、いやいや糞から話題を移しまして、最後に日本の文化の中に生きるウサギのお話を紹介します。『うさぎおいし、かのやま♪』から始まる歌「ふるさと」は小学校6年生で習う日本の代表的な唱歌です。この歌を聴くと、ふるさとの情景が浮かび懐かしさを感じる方が多いのではないでしょうか。この歌の冒頭にあるフレーズの本当の意味をご存じでしょうか?『うさぎおいし、かのやま♪』の意味は「あの山で獲れたウサギは美味しかった」ではなく、「ウサギを追いかけたあの山」という本来の意味があります。かつて野山のウサギは害獣の1種であり、冬季にウサギを捕まえるために追いかける「兎追い」という行事が各地で行われていました。松之山でも積雪期に山に入りノウサギの狩りをする「兎追い」の文化があり、私も何度が参加させていただき、その際に「兎汁」をいただいたり、当時ウサギは貴重なタンパク源だったお話しもたくさん伺ったりしました。現在では行われなくなった伝統行事の一つですが、この季節になるといつも思い出します。

兎追いの様子

8年程前、「兎追い」に参加させていただいた際に、猟師さんからノウサギ1羽をまるまるいただきました。自宅で調理した骨付き肉を食卓に並べた際、美味しそうにかぶりついていた娘の姿に、何か尊いものを感じました。今のご時世美味しいものはたくさんあり、わざわざウサギを食べる必要などないでしょう。しかし、改めて「命を食べる」という視点が、ドカンと腹に入ってきたことを強く記憶しています。まさに「うさぎ追いし」という伝統文化と、「うさぎ美味し」という命の繋がり・めぐみを同時に感じたシーンでした。

里山での暮らしは、自然の恵みを受け“生きる”ということをリアルに感じることができます。このような生態系からの得られるめぐみは「生態系サービス」と呼ばれ、私たちは文化や食料など自然から様々な恵みを得て生きています。「ふるさと」の歌詞には「うさぎ追いし」だけではなく「うさぎ“美味し”」という意味があっても素敵だな、そんなことを感じたノウサギの話でした。

2月6日(土)BSNラジオ 朝9時~ 「大杉りさのRcafe」で放送予定。

この記事のWRITER

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

小林誠(十日町市在住 越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員)

1980年、長岡市生まれ。北海道大学大学院環境科学院博士後期課程修了(環境科学博士)。大学時代は北海道をフィールドに北限のブナ林を研究。現在、十日町市立里山科学館 越後松之山「森の学校」キョロロ学芸員。里山の生物多様性をキーワードに教育普及、体験交流、観光や産業などの側面から、地域博物館を活用した地域づくりに挑戦中。2児の父親。
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