SDGs de はぐくむコラム

内モンゴルの子どもたちとのふれあい

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昨年10月に内モンゴル自治区へ出向きました。内モンゴル出身の留学生や日本人学生を連れて、東アジアの子どもたちの体力と健康度の調査を目的とした旅でした。今回のコラムは、内モンゴル紀行をお届けしたいと思います。

内モンゴルの幼稚園の子どもたちと

私たちが内モンゴルに出向いたのが10月14日でした。ちょうど、ドラマVIVANTが盛り上がっているタイミングでしたから、仲間からVIVANTネタでからかわれながら出発したのをよく覚えています。

内モンゴルには何度か訪れていますが、今回は成田空港から出発し、台湾を経由して瀋陽桃仙国際空港に到着です。そこからタクシーで移動し、内モンゴルに入りました。毎回のことなのですが、現地に到着するまではいつもハラハラドキドキの移動です。今回、特に印象に残っているのが瀋陽市(しんようし)の名物だというタクシーに乗っての移動です。早く本題に入りたいので詳しくは記しませんが、ドラマや映画のワンシーンのような運転ぶりで、私もヒヤヒヤする場面だらけでしたし、初めて中国を訪れた学生たちには刺激的な移動時間だったようです。到着早々から海外渡航の洗礼を浴びたということです。

瀋陽桃仙国際空港のタクシー乗り場

今回、私たちが滞在したのは内モンゴル自治区通遼市(つうりょうし)という、内モンゴルの東部に位置する人口300万人を超える市でした。大陸性気候のため、春は乾燥して風が強く、暑さの厳しい夏は豪雨が続きます。冬はとても寒くなるようです。過ごしやすいのが秋と言われるだけあって、私たちが滞在していた期間は雲ひとつない青空に包まれた気持ちの良い毎日でした。

初日は市内の商店街などを散策しながら暮らしぶりを観察したり、内モンゴルの食事を楽しんだりしました。私はこれまでの経験から内モンゴルの食事が苦手だったのですが、今回の通遼市では食べるもの全てが美味しく、驚きました。これまで感じた羊や豚の独特な臭いも気にならず、私も学生たちも「美味い美味い」と言いながら出てくる食事を頂きました。同じ内モンゴルでも地域が変わると味付けも変わるのだと、留学生から教えてもらい納得しました。

そして留学生の自宅にもお邪魔し、家族のみなさんと交流の時間を過ごすことができました。留学生も4年ぶりに会う家族との時間を心から喜び、そして家族もまた同じく喜んでいるのが伝わりました。コロナ禍で長い期間会うことが叶わなかったわけですから、その気持ちもよく分かります。
みんなで抱き合いながら帰ってきてくれたことを喜ぶ姿は今でも鮮明に覚えています。

留学生の自宅にて、家族と一緒に

さて、それでは今回の旅の目的である内モンゴルの子どもたちの体力測定と健康度調査についてです。そもそもこの調査はコロナ禍以前から実施していたもので、この度ようやく再開できたことに感慨深い思いで臨みました。

この調査に取り組む背景には、子どもたちの体力低下があります。文部科学省による「全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」では、令和元年度から連続して小・中学校の男女ともに体力が低下していることが分かります。体力・運動能力の低下は子どもたちの身体に様々な問題をもたらします。例えば、つまずいて転び、顔面や手首のけがをする子どもが増加しているのもその一つです。幼児期からの様々な運動経験の不足から、身体をコントロールする能力が身についていないと言えます。また、運動不足から肥満傾向にある子どもも増加しています。子どもを取り巻く様々な問題が、運動不足や体力の低下に関する健康的課題となり、各国の重要な政策となっているのです。中国の留学生によると、今、中国でも都市化や技術の進化などが影響して、幼児期における運動不足や健康課題が問題化しているとのことでした。中国でも子どもの体力の低下が、社会の重要な問題となっているのです。

今回の調査では、様々な変化が起きている子どもたちの体力について、特に幼児を対象にして体力・運動能力の実態を明らかにし、日本と中国の幼児の体力・運動能力の比較を行うことで、新たな実態を把握することを狙いとしています。この調査に関しては、通遼市の幼稚園で大変お世話になりました。園長の「日本の教育システムには学ぶことが多い」という言葉からは、だからこそ協力しあって互いに学び合いたいという気持ちが表れているようにも感じました。

通遼市の幼稚園の先生方と

皆さんは体力測定というと、どんな種目を思い浮かべますか?

腕立てが何回できるか?腹筋が何回できるか?50メートルを何秒で走れるか?
日本では、文部科学省が行っている「体力・運動能力調査」があります。握力、上体おこし、長座体前屈、反復横とび、20メートルシャトルラン、50メートル走、立ち幅跳び、ソフトボール投げという種目があります。これは基礎体力となる、筋力、筋持久力、柔軟性、俊敏性、全身持久力、走力、跳力、投力を評価する内容です。また、幼児を対象とした体力測定では、25m走、立ち幅跳び、ボール投げ、体支持持続時間、両足連続跳び越し、捕球、往復走などが実施されています。

この調査を始めた頃、中国の留学生から聞いた話では、子どもたちを対象にした体力測定の内容が日本と随分と違っていました。確かに、文献からも日本と中国の子どもを対象にした体力の比較調査は歴史が浅いことが分かります。これはまだまだ調査の必要性があると感じて、研究室として取り組むことになったのです。

内モンゴルでの体力測定の様子

今回、事前に測定していた新潟市内の保育園と、内モンゴルの子どもたちの体力を比較するために調査を行いました。新潟市内保育園の子どもたちは、体支持持続時間(筋力)、往復走(走力)、立ち幅跳び(跳力)、長座体前屈(柔軟性)の結果が内モンゴルの子どもたちより高い傾向でした。一方、内モンゴルの子どもたちは、ボール投げ(投力)と捕球(調整力)で新潟市内の子どもよりも良い結果となりました。コロナ禍の影響で、私たちが定期的に調査を行ってきた新潟市内の保育園の子どもたちも体力の低下を感じる場面があったのですが、内モンゴルの子どもたちの体力の状況は、それとは違う理由で、つまり、子どもたちを取り巻く環境による影響を受けているのではないかと感じました。分析はまだ続いていますが、それぞれの国で体力の項目に違いがあることは確かなようです。その結果はまたいつかのコラムで報告できたらと思うので楽しみにしていてください。

さて、体力測定の他にも、新潟市内の保育園と内モンゴルの幼稚園をオンラインでつなぎ、交流会を行いました。これは学生たちのアイデアによるものですが、お互いの園で習っている歌を披露しあったり、子どもたちが気になることを質問し合う場面もありました。この催しは、それぞれの国の子どもたちにとって思い出に残る楽しい時間になったと思います。みんな、良い表情をしていました。
まだ訪れたことのない異国の地の友だちと、オンラインを通じて交流し、子どもたちは何を感じたのでしょうか。きっとこの経験が、もう少し大きくなった時に海外に目を向けるきっかけとなることでしょう。今後も何度も訪ねることになるであろう内モンゴルのみなさんと、いつか、オンラインで交流した日本の子どもたちを連れて実際に会う機会を持つことができたらと夢をふくらませています。

オンラインでの交流の様子

最後に、「今回が初めての海外だ」という学生たちを連れての調査でしたが、その学生たちはたくさんの刺激を得て帰ってきました。その経験が、もっと広く世界を見てみたいという意識につながったことは間違いありません。外国での食文化に触れ、トイレ事情に驚き、日本の住みやすさを実感したり、見習うべきところもあったり。チャンスがあればどんどん連れて行こうと思いますが、みなさんにも、学生たちによく話す哲学者アウグスティヌスの言葉を伝えたいと思います。

~旅に出ない者は本を1ページしか読まない人と一緒である~

みなさんも旅にでかけてみませんか。

 

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。先週に続き、1月13日は、新潟大学人文社会・教育科学系准教授 村山敏夫さんです。お楽しみに!

この記事のWRITER

村山 敏夫 (新潟市在住 新潟大学人文社会・教育科学系准教授)

村山 敏夫 (新潟市在住 新潟大学人文社会・教育科学系准教授)

1973年 十日町市生まれ。新潟大学大学院修了。新潟大学SDGs教育推進プロジェクトに取り組み、SDGs未来都市妙高普及啓発実行委員会委員長、新潟市SDGsロゴマーク選考会委員長を担当。出雲崎町、上越市など地域と連携した教育・健康・パートナーシップの仕組みづくりも担う。
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