「こども」「自然体験」「博物館」をテーマに、2020年4月から書かせていただいてまいりました「はぐくむコラム」、早いもので今回20回目となります。この5年間の間、コロナ禍を経験し、来館者・体験者の皆さんの多くの学びに触れ、私自身も多くの気づきを得ながら歩んできました。気づけば白髪も増えました。
変化や試行錯誤を重ねる中で、当館は昨年度開館20周年を迎えました。この間、地域内外の多くの皆さんがさまざまな形で支えてくださり、博物館活動の多くの場面で関わっていただいていることを改めて実感しています。20回目のコラムとなる今回は、博物館と地域の皆さんの関わりについてご紹介したいと思います。
キョロロでは、里山の生物多様性をテーマとした常設展に加え、年3回ほどの企画展を開催しています。館内では、両生類や魚類、昆虫といった里山の生きものの生体展示や標本、さらに、自然を活かした里山の暮らしに関する民具なども展示しています。実は、これらの生物や展示物の多くは、地域内外の皆さんから寄贈いただいたものも数多くあります。
例えば、生体展示している「ハコネサンショウウオ」という小型のサンショウウオは、すべて地域内のラーメン屋さんからいただいたものです。冷たい流水環境に暮らすこのサンショウウオは、沢水を引いている蛇口から時々スポンと現れるそうで、「また出ちゃった~取りに来て~」「今回は大きいよ!」と毎回お電話をいただくのが楽しみになっています。水環境が豊かな松之山ならではの、なんともユニークな光景です。ちなみに、ラーメンにサンショウウオは入っておりませんのでご安心ください。
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写真:ラーメン屋さんからいただく「ハコネサンショウウオ」
また、夏には館内に「カブトムシルーム」を設置し、訪れた子どもたちがカブトムシを間近で観察・触れることができます。ここにいるカブトムシたちも、すべて地域の皆さんからいただいたもの。春の畑仕事の際に堆肥から現れた幼虫を分けていただき、飼育して展示に活用しています。「キョロロに来る子どもたちに楽しんでほしい」「夏に孫と行くのを楽しみにしている」といった温かい声とともに毎年たくさん届けられます。
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写真:カブトムシルーム
このように、キョロロの展示づくりには、地域の皆さんのサポートが欠かせません。それは展示だけにとどまらず、里山の自然や文化を体験するイベントや自然ガイドの場面でも同様です。地域の方々が講師となり、参加者に直接地域の魅力を伝えてくださることで、より深い学びの機会が生まれます。リアルな暮らしの話や自然の知恵が語られることで、訪れた方々にとっても印象深い体験となっています。
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写真:田植え体験の様子
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写真:どんど焼きの様子
こうした地域との関わりは、展示の中にも表れています。その一つが、常設展内の『わたしの宝物コレクション』です。約200個の引き出しの中には、地域の方々が「自慢したいもの」を持ち寄り、地域の自然をテーマに展示しています。住民が「自分ごと」として地域の自然を捉え、発信するこの展示は、来館者にも好評をいただいています。
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写真:常設展「わたしの宝物コレクション」約200個の引き出しには地域住民の自慢したいものが入る
多くの博物館には、博物館活動を支援し、また参加者同士の交流を深めるための「友の会」と呼ばれる組織があることがあります。会員は、特典を受けながら博物館の活動に積極的に参加し、施設の運営や普及活動を支援する役割も果たします。当館にも友の会があり、友の会主催イベントの開催、入館やイベント体験の減免、会報の発行などがあります。会員の皆さんからはイベントのサポートや調査研究活動への協力など、さまざまな形で関わっていただいています。
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写真:友の会主催イベント(池の生き物大調査)
地域に根差した博物館の活動において、地域住民の参画は重要な要素の一つです。博物館は単なる学びの場ではなく、地域の皆さんとともに作り上げ、発展させていく場でもあります。地域の自然や文化を伝える展示やイベントは、住民の皆さんの協力によってこそ実現できるものが多く、そこに地域の知恵や経験が加わることで、より魅力的で身近なものになっていきます。こうしたつながりを大切にしながら、これからも地域と博物館がともに歩み、新たな発見や学び、地域の魅力が生まれる場となることを期待しています。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。2月8日は、越後松之山「森の学校」キョロロ 学芸員の小林誠さんです。お楽しみに!