2月の新潟市。この日は空気も凍てつくようなとても寒いなかで行われた取り組みが「コインパーキングで防災キャンプ」でした。

コインパーキングに並ぶテントでキャンプを実施
新潟大学村山研究室が主催し、日本赤十字社新潟県支部やパラカ株式会社の協力のもとで実施された防災キャンプですが、一見すると異色の試みも、これまでの避難のあり方が抱える切実な課題を背景としています。
災害時、多くの人が直面するのは「どこに避難すればよいのか分からない」という不安です。一方で行政側も、分散して避難する人々に対して、どのように情報や支援を届けるかという難題を抱えています。従来の避難所は、トイレや寝床、食事といった生活環境の制約、感染症対策などの衛生面、さらには幼い子どもや高齢者など要配慮者への対応、多様なニーズへの不足など、多くの課題を内包しています。
こうした状況に対し、本取り組みではコインパーキングに着目しました。災害時、市街地に点在する時間貸し駐車場を活用し、テントや車中泊、さらには簡易コンテナハウスなどを組み合わせることで、新たな避難の形を模索しようというものです。

テントで夜を過ごす学生
今回の実証は、令和8年2月16日に新潟県下越沖を震源とするマグニチュード6.9の地震が発生したという想定のもとで行われました。最大震度6強、津波警報の発令、火災や建物倒壊、土砂災害による孤立、そしてライフラインの停止と、極めて厳しい状況を想定し、その中で「冬季の避難生活」を体験的に検証しました。
実際に参加した学生たちの声は、この取り組みの意義と課題をより鮮明に浮かび上がらせます。最も強い感想だったのは、「夜が寒くて眠れなかった」という率直な感想でした。冬季の屋外環境では、防寒装備を整えていても、地面からの冷気やテント内の温度低下により、想像以上に体力を奪われます。睡眠が十分にとれないことは、翌日の判断力や行動力の低下にも直結し、避難生活の質に大きな影響を及ぼします。そして、日本赤十字社新潟県支部から用意いただいた簡易トイレも初体験でしたし、初体験ずくめの時間です。

簡易トイレの説明を受ける学生たち
さらに印象的だったのは、「隣のテントのいびきが気になって眠れなかった」という声です。些細に思えるこういう問題は、実は避難所全体にも共通する“音環境”の課題を象徴していると感じました。プライバシーが限られた空間では、生活音や人の気配がストレスとなり、心身の疲労を蓄積させていきます。特に不安や緊張が高まる災害時には、こうした小さなストレスが大きな負担となることも少なくありません。
つまり、避難環境の改善とは、単に「場所を確保する」ことにとどまらず、「いかに快適に過ごせるか」という視点が不可欠であることを、この実証で確認することができました。防寒対策の強化はもちろん、テント配置の工夫や簡易的な防音対策、さらには個人空間を確保する仕組みづくりなど、具体的な改善の方向性も見えてきました。

テントで一日を過ごした学生
一方で、コインパーキングという空間には可能性もあります。建物内の避難所に比べて密集を避けやすく、感染症リスクの低減や、家族単位・個人単位での空間確保がしやすい点は大きな利点です。また、車中泊と組み合わせることで、より柔軟な避難スタイルが実現できる可能性も示唆されました。何よりも、駐車場ならではの区画で区切られているという環境が、プライベートを確保できるということが大きい気づきでした。
この取り組みは単なる一夜の実験ではなく、今後の防災のあり方を考えるための重要なステップです。得られた知見は関係機関と共有され、2026年度に鳥取県で開催される防災推進国民大会(ぼうさいこくたい)での発表・発信を計画しています。
災害そのものを防ぐことはできなくても、避難生活の質は確実に向上させることができるはずです。寒さに震え、眠れぬ夜を過ごした学生たちの実感は、机上の議論では得られない重みを持っています。コインパーキングという身近な場所が、「ただの駐車場」から「命と生活を守る空間」へと変わる可能性。その現実的な課題と希望の両方を示したこの取り組みは、防災の未来に向けた一歩につながると思います。
* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。5月9日は、新潟大学人文社会・教育科学系准教授 村山敏夫さんです。お楽しみに!


