SDGs de はぐくむコラム

読書の春

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僕が焙煎士を務める上越市のディグモグコーヒーは、古い町屋を改装した建物の1階にある。店内中央には土間スペースがあり、その天井は吹抜けになっている。普段は、テーブルや椅子を配置してお客さんにくつろいでもらっているが、時々ここをイベントスペースとして使うことがある。
様々なゲストを招いてのトークイベントやクリスマスリース作りなどのワークショップ。音楽ライブや、コーヒーについてのイベントなどその内容は様々だ。
イベントの企画を考えている時は、上越市の小さなコーヒーショップからそのようなイベントを発信することを想像するだけでワクワクする。

だが、イベントの詳細も決まり告知を始めると、
「本当にこのイベントにお客さんが来てくれるだろうか?」
「お客さんはきちんと楽しんでくれるだろうか…?」
などと、ワクワクが一転、不安へと変わる。
イベントの募集を開始し集客が順調ならば、不安はすぐに消えるが、思うように予約数が伸びず苦戦すると、当日直前までそのドキドキが続く。ようやく募集定員近くになった時は、本番はこれからだというのに、もうすでに何かやり切ったような気分になってしまうことも。

今年に入ってから、新しい試みとして「本とコーヒーとお話と。」というイベントを始めた。
毎回テーマを決めて、そのテーマにあった本を紹介し、その本で感じたことを話すトークイベントだ。
僕1人の読書量ではバリエーションが少ないので、上越でブックイベントなどの企画をしている方にもブックマスターとして毎回参加してもらっている。さらに書籍のデザインも手かげるうちのデザイナーにも何冊か紹介してもらい、3人でそれぞれの本について紹介する。
企画した当初は、
「お客さんが少なくても、毎回それぞれが持ち寄った本について話すだけでも充分楽しいかも」
なんて思っていたので、この企画の集客にはこだわっていなかったが、不思議なことにそういった時にはすぐに募集定員になったりする。

初回は「寒い冬にホッとできる本」というテーマ、先月は春にちなんで「出会いと別れ」というテーマで、ブックマスターには3冊、スタッフには2冊、僕も2冊の本を紹介した。

毎回違ったテーマを設定し、当日までにそのテーマに沿った本を選ぶ。これが悩みどころだ。せっかく好きな本を紹介するのだから、当然、思い出に残る大事な一冊を紹介したいと思う。だが、案外ちょっと最近読んだ本を紹介するくらいの気分の方が、その本の良さがうまく伝わりやすく、本についての話が盛り上がったりするから不思議だ。
選んだ本の紹介の仕方も、なかなか難しい。もちろんオチを言ってしまっては、これから読みたい人に申し訳ないので、ストーリーのさわりを少し話しながら、この本を選んだ気持ちや、本の良さをうまく伝えたい。
冷静に最低限の必要な要素を伝えつつ、うまく自分の心にヒットした感情の熱い部分も話す。もちろん聞いている人を置き去りにしないように要点をうまく伝えなくてはいけない。
そんなこと、もちろん簡単にできるはずがない。
イベントの最後に、今回のテーマからお客さんが持参してくれた本があれば紹介してもらう。手短に話してもらうのだが、皆さんとても上手で、どちらが登壇者かわからなくなるほどだ。

他の人が紹介する本の話を聞いていると、なんだかどれも読みたくなる。その本の中にある世界を、目の前にいる人から聞くことで、ぐっと好奇心をそそられるのだろう。
好きなことをについて話す時は、その言葉に不思議なパワーが加わり、それが自然と他者に伝わるのかもしれない。誰かの好きな本が、また誰かの大切な一冊へと伝染する楽しさ、それもこのイベントの魅力だろう。
そんな機会を上越市のコーヒーショップの小さな土間スペースから発信できていることが嬉しい。

ちなみに次回はGW最終日5月6日夕方にディグモグコーヒーで開催予定。テーマは衣替えの季節にちなんで「おしゃれ」に決まった。その本の内容や世界観がおしゃれでも、登場人物の振る舞いがおしゃれでも、装丁や本のデザインがおしゃれでもいい。
僕は今から選書に迷いながら、次回はどんなふうに紹介したらいいか今から頭を悩ませている。
だけど、このイベントを僕自身が楽しみにしているのは、日常が少し鮮やかになるような読書の楽しさを再確認したからだろう。
皆さん、春に読書などいかがでしょうか。

   

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。4月18日は、「ハレッタ」のキャラクターデザインを手がけた、イラストレーターでアートディレクターの大塚いちおさんです。お楽しみに!

http://立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2026/04/18/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20260418100000

この記事のWRITER

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

1968年上越市生まれ。イラストレーター・アートディレクターとして、テレビ、CMなどのイラスト・デザインを手掛ける。子ども番組「みいつけた!」(NHKEテレ)アートディレクションを担当。連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK)タイトルバックイラストなど。子ども向けのワークショップも多数開催。2005年に東京ADC賞受賞。東京造形大学特任教授。
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