SDGs de はぐくむコラム

長距離ドライブ

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仕事のスケジュールを調整していると、つい先日くらいと思っていたやりとりが、もう何ヶ月も経っていたなんてことがよくある。毎年恒例になっている仕事の案件でも「え、もう1年たったの?」と感じてしまうのは僕だけだろうか?

最近、僕の中では、そのスピードは加速度をつけてどんどん早くなっている。「え、もうあれから10年も経ったの?」なんてことが起きても、もうそれほど驚かなくなった。

このコラムを読んでいる子育て世代の方は、まだ想像するのが難しいかもしれないが、子どもの成長も、本当に早い。いや、早かった。ついこの前まで手を繋いで一緒に近くの公園まで歩いていたと思う我が家の2人の娘も、下の娘が昨年4月からついに大学生になってしまった。

上の娘はすでに大学生で、ここ数年、自宅から都内の大学に通っている。そのおかげで、生活の変化や子離れの寂しさはそれほどなかった。だけど、下の娘は北海道、それも網走の大学に行くというから当然一人暮らしだ。離れて暮らす寂しさが急に湧いてくる。

網走での通学や生活には車も必要だということで、父親からの餞別として中古車を購入したのはちょうど1年前のことだった。

その車を現地に運ばなくてはならない。免許取り立ての娘だけでは流石に北海道までは難しいだろう。であればと、僕らは2人で網走まで車で一緒に行くことにした。娘との数日間の2人ドライブ旅行が決まった。

旅のスケジュールは全面的に任せてもらうことになった。決行は3月末、無理なく移動できるようにかなり余裕のあるスケジュールを組んでの出発となった。

初日は、東京から仙台を目指した。荷物も積み込み出発。こういう時、だいたい出発前の写真撮影を忘れる。旅立ちの初めの記録がないのは今でも心残りだ。

車で仙台へは以前、1人で行ったこともあり、距離的にもよく往復する東京上越間と同じくらいだから、それほど移動のストレスもなかった。仙台ではよく立ち寄らせてもらっているお寿司屋さんを予約して一緒に行った。まだ一緒にお酒が飲める年齢ではないが、いつかまた2人で来て、今度はお酒を一緒に飲めたらと、近い未来の想像などしながら楽しい時間を過ごした。(東京→仙台 362km)

翌日は仙台市内を少し娘に運転してもらった。仙台にはよく来るが助手席から街並みを見るのは新鮮だった。しばらく練習したら運転を代わってもらい、次の目的地青森市に向かった。青森から北海道への移動はフェリーになる。2日目は青森市内のホテルに泊まり、翌日朝のフェリーで函館に入る。いよいよ北海道だ。(仙台→青森市 362km)

3日目、フェリーで函館に着いてからその日は、それまでの移動の疲労も考慮して、登別までの移動にした。宿泊は登別温泉。大きなお風呂のあるホテルだったが、散歩ついでに1人で行った近くの外湯が銭湯のような雰囲気で、狭いながらも風情があって楽しい。年頃の娘はこういったところにはついて来てくれなかった。(青森市→登別温泉 215km)

4日目の夜は帯広に宿泊予定で登別から帯広までの移動だった。札幌には今回立ち寄らない予定だったが、当日娘の高校の同級生がたまたま札幌にいることがわかり、札幌を経由し、夜には帯広に到着した。(登別温泉→札幌→帯広 310km)

5日目、お昼に帯広で買い物などを済ませたら、いよいよ最終目的地の網走に向かった。道東へ進むとだんだん風景が変わってくる。もちろん北海道というだけでも本州(新潟や関東)の風景とは違うのだが、またそこからもう一段ギアが上がるように風景が変わる。生えている植物や、建物の雰囲気も違うが、広大な土地がただただ広がる風景は雄大で、そのスケール感と美しさに圧倒される。5日間も2人で車内に一緒にいるとだんだん会話もなくなりそうだが、そうでもなかった。僕が普段あまり家にいないせいか、あれこれ娘が話し始めると新鮮な話題が多く、娘の話を聞いたり、風景を見ながら他愛の無い話をしながら、ドライブを楽しんだ。(帯広→網走 183km)

網走に到着すると、その日はホテルに宿泊し、翌日には不動産屋さんからアパートの鍵を受け取ることになっていた。いよいよ5日間1432kmの2人のドライブも終わりだ。そして同時に娘の一人暮らしが始まる。

僕が、娘と同じ18歳の時、上越から東京に出て一人暮らしを始めた。運送屋さんが荷物を運び出して、空っぽになった実家の部屋にいた時、ふと両親が僕の部屋に来たのを覚えている。何を話したのか、おそらくなんでも無い話しだったが、その時両親がどんな気持ちだったのか、その時少しわかったような気がした。

娘が網走で生活を始めてからもうすぐ1年が経とうとしている。普段はほとんど連絡などしてこないが、夏休みに東京に帰って来た時には、網走での生活の楽しい様子をたくさん聞いた。楽しい学生生活と共に、いつか2人での長距離ドライブのことも思い出し、その時父はどんな気持ちだったのかをほんの少し想像してくれたら嬉しい。

 

 

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。
1月25日は、「ハレッタ」のキャラクターデザインを手がけた、イラストレーターでアートディレクターの大塚いちおさんです。お楽しみに!

http://立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2025/01/25/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20250125100000

この記事のWRITER

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

大塚いちお  (東京都在住 イラストレーター・アートディレクター )

1968年上越市生まれ。イラストレーター・アートディレクターとして、テレビ、CMなどのイラスト・デザインを手掛ける。子ども番組「みいつけた!」(NHKEテレ)アートディレクションを担当。連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK)タイトルバックイラストなど。子ども向けのワークショップも多数開催。2005年に東京ADC賞受賞。東京造形大学特任教授。
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