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映画『宝島』が映す、コザの街と沖縄のリアル

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映画『宝島』が映す、コザの街と沖縄のリアル

2026年3月の前回のコラムで、2月に実施した敬和学園大学の集中講義で、学生たちと沖縄を訪れ、かつての核ミサイル基地跡(恩納村のメースB基地跡)を見学したお話をさせていただきました。それから数ヶ月が経ちましたが、まもなく6月23日の「沖縄慰霊の日」を迎えるこのタイミングで、もう一度、沖縄について書いてみます。

2025年秋に公開された映画『宝島』(大友啓史監督、真藤順丈原作)が、5月1日からネット配信されました。実はこの作品、劇場公開の同時期には大ヒット作『国宝』があり、全国的な興行としては少し陰に隠れてしまった印象があります。ここ新潟でも上映期間が短く、「観に行こうと思ったら終わっていた」という方も多かったのではないでしょうか。

しかし、日本アカデミー賞で8部門の優秀賞を受賞するなど作品の評価は非常に高く、「隠れた名作」として今、配信を通じて改めて多くの人に視聴されています。この映画の舞台である沖縄市の「コザ」も、私たちは2月の集中講義で訪問しています。

「戦争の悲惨さ」の先にある、教科書では見えにくい理不尽

ガマ(自然洞窟)や平和祈念公園など、沖縄戦に関する直接的な史跡や展示に対して、学生たちは強い衝撃を受け、ストレートに反応します。しかし、コザの街並みから見える、その先にある「戦後の米軍統治」となると、少し様子が変わってきます。

米軍に権利を脅かされ、事件や犯罪が起きても日本の警察は手出しができずに泣き寝入りせざるを得なかった、沖縄の人々の過酷な境遇。これは、目に見える「戦争の悲惨さ」に比べると、現代の学生たちにとっては少しインパクトが薄く、現地の資料館などを見学しても、なかなか実感を伴った反応が返ってきにくい部分でした。
しかも、学生たちにとっても、実は私にとっても、コザは初めての訪問でした。かつてのきらびやかで混沌とした歓楽街(特飲街)の面影は失われており、私たちが歩いたのは静かな「昼間」でした。正直なところ、街を歩いただけでは当時の人々の葛藤はピンときていなかったと思います。

しかし、その後に配信が始まった映画『宝島』の映像が、彼らの認識の隙間を劇的に補ってくれました。映画では、1952年の米軍基地から物資を奪う「戦果アギヤー」の姿から、1970年の「コザ騒動」に至る激動の20年と、その舞台となったコザの街並みが見事に再現されていたからです。

映画が補う「感情のリアリティ」

映画では、米兵による事件が起きてもMP(米軍憲兵)に犯人を連れ去られてしまうもどかしさや、1959年の「宮森小学校ジェット機墜落事故」のような悲劇が描かれます。さらに、コザ騒動の直前には、1969年の知花弾薬庫での「毒ガス漏れ事故」や、1970年の「糸満の主婦轢殺(れきさつ)事件(米兵の無罪判決)」を思わせる出来事や言葉が画面に現れます。

映画の中でこれらの歴史的事件が事細かに説明されるわけではありません。しかし、当時を生きていた沖縄の人々には「あのことだ」と生々しく伝わり、歴史を詳しく知らない現代の私たちにも、人々の怒りと悔しさが限界まで沸騰していくプロセスが、熱量をもって伝わってくる描写になっています。
自分たちが昼間に歩いた静かな通りが、映画の中で激しい怒りとエネルギーを持った沖縄の人々で埋め尽くされ、文字通り「立体化」して私たちの前に現れます。

「コザ騒動」は、米兵の交通事故をきっかけに群衆が米軍車両を次々と焼き討ちした大騒動です。現地の静かな風景や教科書の文字だけでは想像しきれなかった歴史の裏にある、「泣き寝入りを強いられてきた人々の爆発した感情」が、映画というメディアの力を経て、学生たちにも生々しく立ち上がってきたようです。

大友啓史監督は、かつてNHK時代にドラマ『ちゅらさん』の演出を担当したことでも知られています。映画『宝島』は、あの明るい沖縄ブームの裏側にある、戦後のリアルな、そしてダークな側面を容赦なくえぐり出しています。それはもしかしたら、沖縄の問題を「日本の問題」として捉えきれていない、私たち本土の人々が目を背けてきた現実なのかもしれません。沖縄以外の劇場で上映が短かった背景には、そうした本土側の「関心の薄さ」が映し出されているようにも思えます。

この映画は「PG12(12歳未満は保護者の助言・指導が必要)」に指定されているため、お子さんと観るには少し注意が必要です。まずは6月23日の「沖縄慰霊の日」を前に、私たち大人がこの作品を受け止め、考えてみませんか。配信という身近な窓を通じて、本土の私たちが沖縄の歴史をどう見つめ直すか。大人がまず一歩を踏み出すことが、子どもたちの社会性を「はぐくむ」対話への第一歩になるはずです。

 

  

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。6月6日は、新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授の一戸信哉さんです。お楽しみに!

http://立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2026/06/06/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20260606100000

この記事のWRITER

一戸信哉(新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授)

一戸信哉(新潟市在住 敬和学園大学人文学部国際文化学科教授)

青森県出身。早稲田大学法学部卒業後、(財)国際通信経済研究所で情報通信の未来像を研究。情報メディア論の教鞭を取りながら、サイバー犯罪・ネット社会のいじめ等を研究。学生向けSNSワークショップを展開。サイバー脅威対策協議会会長、いじめ対策等検討会議委員長などを歴任。現在:敬和学園大学人文学部国際文化学科教授。
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