SDGs de はぐくむコラム

想いがすれ違わないために

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新潟市では「Nobody”s Perfect(ノーバディズパーフェクト)~完璧な親なんていない~」(略して「NPプログラム」)という、カナダ生まれの親支援プログラムが実施されており、私もNPファシリテーターとして活動しています。

NPプログラムは、0~5歳の子どもを持つ親を対象とし、参加した親が互いの体験や不安を話しあうことで、子育てのスキルを高め、自信を取り戻していく親支援プログラムです。プログラムは参加者のニーズにしたがって進める「参加者中心型プログラム」で、ファシリテーターが「体験学習サイクル」という手法を使って、一人ひとりの価値観を尊重しながらプログラムを進行していきます。

「体験学習サイクル」とは、問題が起きた時に、「どうしたのか」→「なぜそうなるのか」→「どうしたらいいのか」→「それでもうまくいかない時は」を順番に考えて問題解決に繋げる手法です。私たちは問題が起こると、「なぜそうなるのか」を考えないで、自分の経験や人のアドバイスから、「どうしたらいいのか」に進んでしまいがちです。それが、うまく解決に繋がる時はいいのですが、「なぜそうなるのか」に対する対策ではない時、解決に結びつかなかったりします。

NPプログラムを実施している中で、よく出てくる話が、育児に協力的でない夫の話です。先日、あるママとご飯を食べながら話をしていた時も、夫の育児参加の話で盛り上がりました。その時に「体験学習サイクル」を使って解決方法を見つけ、実践したら夫の育児参加がうまくいったとの報告を受けたので、少し参考になるかもと思い、「体験学習サイクル」を使った実例を紹介します。 

  • 「どうしたのか(起こっていること)」

彼女は2歳の女の子を育てる専業主婦です。夫は忙しい会社員で子どもが寝てから帰宅することもしばしば。夫が忙しいので平日は一人で子育てをしていますが、このところ「イヤイヤ期」がはじまり、何を言っても「イヤ!」と言われてイライラしています。

彼女に、夫への不満を聞いてみました。

「聞いてくださいよ、休みの日に『夕飯は、手作りハンバーグが食べたいから作って』とか、平気で言うんですよ。どれだけ手間がかかるか分かってないんです。でも、毎日遅くまで頑張っているから作ってあげようと思って、一緒に買い物に行ったんです。買い物が終わって私が子どもを抱っこして買い物袋を持っているのに、お構いなしに携帯を見ながらスーパーの駐車場の車に向かって行くって信じられないと思いません?」

「夕食の支度をするときくらい子どもと遊んで欲しいけど、子どもがぐずると『ママお願い』って。じゃあ、私が子どもを見るから夕飯してって言いたいけど、言ったらケンカになるから、おんぶして夕食を作りました。ましてや、子どもが夜泣きしてるのに無視して、布団を頭まで被って寝るってどう思います?」

「毎日忙しく働いているから、休みの日は休ませてやりたいという気持ちもあるけど、私だって休みもなく昼夜問わず育児をしていると思うと、夫に無性に腹が立ってケンカしたくないのにケンカになっちゃって最悪です。」

 

  • 「なぜそうするのか、そうなるのか(夫の立場で想像してみた)」

彼女の悩みを一通り聞いた後、私は彼女に「ご主人はなぜそうするのか?そうなるのか?」夫の立場で想像してもらいました。するとこんな答えが。

「年齢的にもキャリア的にも丁度働き盛りで、仕事も面白く、管理職になったこともあり、仕事に対する責任も増えて帰りは遅くなります。」

「子どもも少しお話ができるようになり、『パパ』って呼ばれると、可愛いと思いますが、最近は何を言っても「イヤ、イヤ」ばかりで、どうしていいか分かりません。妻が夜泣きで起きていることも分かりますが、私が起きて抱っこしても、泣き止ませることができなかったので、妻に任せた方が子どもの為にいいですよね。」

「妻が夕飯の支度をしている時に子どもがぐずったので、お菓子をあげたら、『飯の前にお菓子をあげないで』と怒られました。良かれと思ってやっても妻が怒るので、何もしない方いいと思っています。忙しそうなので、協力したい気持ちはあるんですけど・・・」

  • 「どうしたらいいのか」

ではどうしたら良いのでしょう?彼女と私で解決方法を考えます。

彼女)「夫は、育児に参加したい気持ちはあるが、どうしていいか分からない。私は、初めての慣れない育児で、余裕がなく、夫に育児を頼むときに面と向かうと、イライラの感情が先に出て、強く言ったり、非難したりしてしまい、どうして欲しいのかをうまく伝えられてない。」

私)「帰るのも遅いし、二人で話す時間も少ないから、紙に書くってどう。夫は仕事モードになっているから、仕事モードのまま育児モードに突入できる書き方を考えよう。」

「仕事で段取りするときって、スケジュールが大事よね。子どもが1日どんな風に過ごしているのか分かってもらうために、1日のスケジュールを時系列で書いてみるのはどうかな。そもそも、子どもと接する時間が少ないから、子どものことを分かってないよね。仕事モードだと、〝子どもの取扱説明書“って感じかな。」

彼女)「分かった、分類した方が分かりやすいよね、「興味のあること」「特技(特徴)」「こんなときは」という3つに分けてまとめてみると良いと思う。」

私)「だらだら書いちゃうと、ポイントが伝わらないから箇条書きはどう。それをA4用紙1枚にまとめよう、一目で見られるから。

彼女)「作って見やすいように冷蔵庫に貼ってみます(添付の写真がその実物です。)」

   

  • 【こんな風に変わってびっくり】

結果、作戦は大成功!彼女から嬉しい言葉が届きました。

「やる気はあるけど、どうしていいか分からなかったみたい。夫は書き出されたものを見て、『一日があっと言う間だね、いろいろ工夫してやっているんだ』と育児の大変さを理解してくれました。」

「その変化は『夕飯は何が1番楽?』と聞くようになり、『大変ならスーパーのお惣菜でもいいよ』と言うようになりました。この前、買い物に行った時も、子どもを抱っこしている私に傘をさしてくれて、荷物を持ってくれたんです。そして夕飯を作っている間に、『散歩に行くか』と子どもと散歩に行ってくれたので、1人で気楽に夕飯を作ることができました。寝るときも、いつも夫・私・子どもと川の字で寝るところ、『子どもを俺の隣にしていいよ』といい、自ら子どもの隣で寝て、夜泣きもトントンでまた寝かせてくれました。びっくりですよね。」

「『イヤイヤ』という子どもにも“取扱説明書”を見て上手に対応していました。嬉しくって『ありがとう。助かった。』をいつもの3倍伝えちゃいました。そして〝タイムスケジュール“と〝取扱説明書”は、子どもがその時期にどんな生活をしていたのか、どんなことで困っていたのかを残す良いツールとなっています。」

良かった、良かった。私もこんなに劇的に夫が変化するなんてびっくりでした。なかなかこうは上手くいかないかもしれませんが、二人とも思いやる気持ちがあるのに、伝わらなかったんですね。ママもパパも子どもや相手のことを思っているのに、その思いを共有できないのは、もったいないです。言葉によるコミュニケーションも大事ですが、言葉以外にもその家族にあった想いを伝える方法があるはず。最近では、便利なアプリもあるようですし。それをあきらめないで見つけて欲しいと思います。

NPプログラムは、色々な人の意見が沢山出ることで、困っていることなどに新たな解決方法を持つことができます。第三者がいることが大切な要素になっています。

家族の中だけで考えても上手くいかない時に、なんとなく相談できる緩やかで風通しの良い第三者がいると、一緒に良い方法を考えてくれると思います。

    

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。10月12日は、新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長 /子育て支援ファシリテーターの立松有美さんです。お楽しみに!

http://立石勇生 SUNNY SIDE | BSNラジオ | 2024/10/12/土 10:00-11:00 https://radiko.jp/share/?sid=BSN&t=20241012100000

 

この記事のWRITER

立松 有美(新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長/子育て支援ファシリテーター)

立松 有美(新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長/子育て支援ファシリテーター)

1960年新潟市生まれ。子育てをしながら公民館や女性財団で男女共同参画やファシリテーションなどを学ぶ。2015年、「にいがた子育ちステイション」を設立。2016年、新潟初の子ども食堂「にいがた ふじみ子ども食堂」開設。子育て支援ファシリテーターとして公民館の家庭教育学級やNobody’s Perfect等の親支援プログラムのファシリテーターとして活動。アンガーマネジメントファシリテーター 産業カウンセラー NPO法人日本ファシリテーション協会新潟サロン世話人 ほか
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