いきものがたり

Vol.57 ハヤブサ⑥若鳥1羽の旅立ち

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ハヤブサの子育てで重要なのは、若鳥が自立できるようにすることだ。エサを食べさせて成長させることはもちろんだが、彼らにとって最も重要な能力といえば、その飛行技術だ。鳥類の中で最速といわれるスピード。風をうまくつかんで上昇気流にのったり、急降下したりといった飛び方を、親はなんとか子どもに伝えようとしている。

6月、巣立った若鳥に親鳥が近寄ってきて、いきなり親が飛び出した。若鳥の頭の上をグルグル旋回している。若鳥はその親の姿を目で追っていた。実はこれ、親が子に飛ぶことを促しているのだ…やがて若鳥が飛び上がった。すかさず親鳥が寄り添うように飛んだ。旋回を少ししたところで若鳥はもう岩に止まってしまう。その後も何回も何回も親と子の飛行訓練は続いた。オスもメスも一緒になって3羽が旋回する姿は、この時期だけに見られる貴重な映像だ。それから3週間後、観察したところ若鳥1羽だけで飛ぶ姿が見られ、その後はすっかり巣の周辺から若鳥の姿は見られなくなってしまった。

秋になって、私たちは思いがけないところでハヤブサの若鳥と遭遇した。それは前に見ていた巣のあったエリアから50kmも離れた砂浜。いまだお腹の模様は縦縞で若いハヤブサが、ハトを自らの力で獲り食べていたのだ。すでに顔つきは精悍で、たくましい若鳥、たった1羽で自分のエリアとなる崖を探さなくてはならない…1羽の旅は続いていく…

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