「夫の実家に帰省して帰ってくると熱が出て3日くらい寝込むんです。」10年ほど前、乳幼児期家庭教育学級で、こんな話を聞きました。
小さい子どもを連れて遠方から帰省するとなると、子どもの支度だけでも大変なのに、「気の利いたお土産は何だろう」と行く前から気を使います。帰省したら朝から晩まで相手の生活ペースに合わせて過ごします。子育ての価値観も違う。食事も違う。そして、親戚の集まりで「嫁」としての振舞を求められます。自分の育った環境と違う習慣に戸惑いながら過ごします。
それなのに、二人でいるときは、子育てや家事に協力的な夫が、実家に帰るとすっかり「息子」になって、何もしないでくつろいでいる。そればかりか、「地元に帰ったから」と自分だけ友達と飲み会に出かけて楽しんでいます。

久しぶりに会う孫に、じいじやばあばは、可愛いさのあまり勝手にお菓子やおもちゃを与えるので、頑張って習慣づけた子どもの生活リズムも崩れ、「何のために毎日子育てを頑張ってきたのだ」と腹が立ちます。私に何かと気を使ってくれているのは分かるけれど、どうも居心地が悪いのです。
それでは、家に帰った途端に熱が出るのも無理はないと思います。
その後、コロナで強制的に帰省できない時期が2年くらいありました。大変なことも沢山ありましたが、帰省に関して言えば、「帰る側も長期休みを家族でゆっくり過ごせた」。迎える側も、準備や後片付けに追われることもなくマイペースで過ごせて楽だった」という声もありました。

さて、そんなコロナ期を超えて、今どきの帰省はどうなっているのだろうと、4歳の子育て真最中のママに聞いてみました。「ママが仕事をしていなくて、実家が遠い人たちは、夏休みに入ると、ママは子どもと一緒に実家に帰るの」「え、パパは?」「その間、ゆっくり一人暮らし、お互いにいいみたいよ」「パパは、その後ママの実家に行くの?」「行かないみたい、パパはパパの実家に行く家もあるよ」。
最近は、若い世代を中心に「セパレート帰省」が増えているそうです。理由を聞くと、「お互いに自分の実家の方が気を使わず楽」「貴重な長期休暇を自分の親や地元の友人と自由に過ごしたい」とのこと。
また、帰省しても宿泊はホテルにして滞在期間も短いという話も聞きます。さらに、物価高や交通費の高騰を受け、「高いお金と時間をかけてお互いに疲弊するなら、今年は帰省しない」と割り切る夫婦も増えているようです。コロナ期に盛んになった、オンライン帰省やビデオ通話で済ませたりする選択も日常的になりました。

一方で、受け入れる祖父母世代からも本音が聞こえてきます。「孫に会えるのは本当に嬉しいけれど、子育てをしていた頃と違って、この歳になると元気な孫の相手は疲れるのよ」「折角旅費を使って来てくれたのだから、滞在中の費用はこちらで持ちたいけれど、年金暮らしでこの物価高でしょう。正直きついのよ」。
子どもたちが帰った後は「いる間は賑やかで楽しいけれど、普段夫婦だけのペースで暮らしているから、急に人数が増えると3食の準備、洗濯、掃除と負担が増すの。だから帰った後は疲れがどっと出て」という声もあります。
親たちも現役で働いている人が多いため、「本当は夜だけでもホテルに泊まってくれたら」「食事は外食や惣菜で手抜きしたい」という本音もあります。
若い世代が選択している「ホテル泊」や「セパレート帰省」は、結果的に親側の負担や気遣いも大きく減らしています。
休みの長さ、働いているかどうか、実家が近いか遠いか、そして関係性によって帰省の形は変わります。ですが何より、お互いが疲弊して熱を出したりしない方法を考えられたらいいと思います。
個人が尊重され、生活習慣や「普通」という概念が人それぞれ違う時代になりました。若い世代には義務感や慣習にとらわれず、合理的で対等な帰省観が広がっています。親世代も「せっかく帰ってきてくれるのに水を差したくない」「良い親・祖父母でいたい」と無理をして本音を飲み込むのではなく、お互いのストレスを最小限に抑えるために話し合えたらと思います。
「帰省ブルー」という言葉があるそうです。実は義理の実家だけでなく、自分の実家への帰省がストレスになっている人もいます。そして、それは迎える側にもあります。

帰省の形は時代とともに変わっていくのでしょう。でも、「会いたい」「会えてよかった」という気持ちは、昔も今も変わりません。だからこそ、お互いが無理をせず、「こうあるべき」を少し手放して、「また来てね」「また来るね」と笑顔で言える帰省を一緒に考えていけたら良いなと思います。

* BSNラジオ 土曜日午前10時「立石勇生 SUNNY SIDE」の オープニングナンバーの後に「はぐくむコラム」をお伝えしています。8月8日は、新潟市在住 にいがた子育ちステイション理事長 /子育て支援ファシリテーターの立松有美さんです。お楽しみに!
